私は、お父さんの仕事上、よく引っ越しをする。だけど、今回は東京に帰ってきた。しばらくは、ここで暮らせるみたい。・・・懐かしいとは思わない。帰ってきたと言っても、私が東京にいたのは、幼稚園の頃で、あまり記憶が無いから。
とにかく、私は今日から、氷帝学園に通うことになった。

「初めまして。 といいます。これから、よろしくお願いします。」

微妙な拍手が起こり、自己紹介は終わった。だけど、本番はここから。休み時間で、どれだけ人に気に入ってもらえるか。そうして、友達を作っていく。

さん、東京に来たのは初めて?」
「ううん。小さい頃にいたの。あんまり、記憶無いけどね。」
「じゃあ、初めても同然じゃない?」
「そうだねー。」
「今度、この辺の店とか、紹介しようか?」
「本当?ありがとう。」
「いいって。それより、さん。前は、どこに住んでたの?」

なかなか、いい雰囲気になってきた。

そして、いつしか私はすっかり、ここに馴染んでしまった。・・・これは、ある意味特技かもしれない。というか、私には本当の特技があった。そのおかげで、今までも早く、馴染むことができた。

ー。頼む!もう1回!!」
「仕方がないなぁ。・・・それじゃ、何がいい?」
「え〜っと、跡部君の真似で名前、呼んで?」
「OK。・・・コホン・・・・・・。・・・絵里。」
「・・・・・・・・・っ最高!!似すぎ!!」

そう。私の特技とは、ものまね。特に、学校の人気者はすぐにできるようになる。しかし、この学校には、少し厄介な人気者がいた。それは・・・。

「ねぇ、。次は、私の名前を忍足君の真似で、呼んでくれない?」
「忍足君は、ごめん。」
「・・・?どうして?」
「だって、忍足君。関西弁が難しい。」
「そうだね。でも、またそこがいいよね!」
「ハハハ。本当、由美は好きだね。」
「当たり前じゃない。だって――。」

私はよく引っ越しをしているし、その中で関西に住んでいたこともある。だけど、よく引っ越しをするから、それは、全て短期間。その短期間で、関西弁は聞けばわかるようになったけど、自分では話せない。だから、忍足君のものまねだけは、できなかった。

しかし!そんなことで諦める私ではない。しばらくは、ここで過ごすのだから、なんとしても、忍足君をマスターしてみせる!そう思って、私は、ある作戦に出た。

「由美。忍足君のクラスに行くけど、行く?」
「な、なんで?」
「(慌てちゃって、かわいいなぁ。)国語の教科書、忘れちゃってさ。だから、絵里に借りようと思って。絵里、忍足君と同じクラスでしょ?」
「そういうことか。・・・じゃあ、絵里のクラスに行くって、言ってよ!」
「同じじゃん。」

ある作戦とは、忍足君のクラスに行くこと。そして、たっぷり観察して必ず、関西弁をマスターするぞ!

ー。帰るよ。」
「先帰っといて。私、ちょっと残るから。」
「わかった。」

さらに私は、放課後、男子テニス部を見学しに行き、たっぷり忍足君を観察した。・・・ちょっとずつ、わかってきたかも。

「ねえ、絵里。聞いといて、・・・・・・そやろ、由美。・・・似てる?」
「う〜ん・・・。前よりかは、上手くなったけど、たぶんそれじゃ、由美は満足しないと思うよ。」
「そっか〜。ありがと。」

だけど、遠巻きに見ているだけじゃ、やっぱりあんまりわからなかった。・・・こうなったら、直接しゃべるしかない!

と言うわけで、実際私は忍足君に教科書を借りに行った。(もちろん、由美も一緒。)

「あの、忍足君。化学の資料集、持ってない?」
「・・・あぁ、持ってんで。」
「貸してくれない?」
「ええで。」
「ありがとう。次の休み時間に返しに来るね。」

私は、化学の授業中も真剣に、忍足君について考えていた。(良い子は真似しないように!)
返しに行く時、もう1度、じっくり観察するしかない。

「忍足君、ありがとう。おかげで助かったよ。」
「そりゃ、よかったわ。もう忘れへんようにしーや。」
「うん。気をつけるよ。今日は、本当にありがとう。」
「ええで。ほな、またな。」
「・・・うん。」

・・・くそ。もうちょっと、話を伸ばそうとしたのに・・・。けれど、忍足君の方から「また」と言われているのに、まだ話すわけにはいかないので、私はその場を去った。

「忍足君。初めて近くで見たかも・・・。」

そんな悦に入っている由美を放っておいて、私はひたすら、忍足君の言動を振り返り、練習し続けた。

それから、何度も何度も話しかけ、私達はついに忍足と仲の良い友達になった。今では、由美も憧れの対象ではなく、ただの友達として、忍足を見ていた。
しかし、それでも私は忍足の関西弁をマスターすることはできなかった。

「もう、教えてよー!忍足!!」
「いや、教えろ、言われても・・・。俺にとっては普通やねんし。どないして教えたら、えぇねん?」
「どうにか。」
「どうにか、って・・・。もう、別にえぇんとちゃうん?俺をそういう対象にせんくて。」
「いいの!」

今となっては、私はただ、忍足の関西弁を意地だけで、マスターしようとしていた。・・・別に、どんな理由でもいいじゃない。
しかし、そうは言いながらも――。

「・・・・・・・・・どないしたん?」
「わっ!ビックリした・・・。何?」

私がいろいろ考えていると、いつの間にか忍足の顔が目の前にあって、驚いた。

「なんか、最近、ボーッとしてること多いで、自分。」
「そう?」
「あの2人が原因か?」
「・・・なんで、そう思うの?」
「最近、あの2人と一緒にいることが少のうなっとるような気がしたさかい。」
「・・・気のせいよ。」

忍足と仲良くなってから、絵里と由美――特に、由美は私とあまり、付き合わなくなったのは、事実だ。だから、心の中では忍足のものまねで人気者になりたい、とまだ思っているのかもしれない。忍足のものまねで、違う誰かにちやほやしてほしくなったのかもしれない。だから、未だに、忍足のものまねをマスターしたいのかもしれない。

「何かあるんやったら、言いや?」
「言うよ。」

それと、忍足と話していると、とても落ち着ける。だから、忍足と話がしたいから「マスターするから、関西弁、教えてー!」などと言っているのもあると思う。
とにかく、私の学校生活の歯車は、ここで狂いだした。

忍足は前にも述べたように、学校内の(もしかすると、学校外でも)人気者だ。忍足は他の人気者と比べれば、まだ話しやすいものの、やはりよく話せて、よく一緒にいられるなんてことは、なかなか無いことである。自分が女子であれば、尚更だ。だから、そんな奴がいたならば、忍足ファンの子達にとっては、妬みの対象であり、邪魔な存在である。そして、いじめの対象でもある。

最近、私の周りには、誰もいない。もともと、引っ越してきた私など、本当の友達なんていないし、味方がいないのだ。・・・前まで、少し仲良くしていた絵里や由美も、今では全く関わりの無い存在になってしまった。

「自分。淋しそうやな。」
「忍足なら、理由、わかるでしょ?」
「・・・大体は、な。」

今、私と話してくれる人物は、原因の忍足ぐらいだった。でも、別によかった。私は、今までも、何度も引っ越しているから、本当の友達なんていなかった。だから、気にしていないつもりだった。

「まぁ、たぶん俺関係やろ?」
「だろうね。」
「・・・そうか。・・・・・・ほな、もうしゃべらんようにしよか?」

そう忍足が言った。私はそれを聞いて、しばらく、固まってしまった。だけど、すぐにそれを否定した。

「ううん。いい!別に周りには、何もされてないし、影で言われてるだけだから。全然、気にしてない。」
「今は、そうかもしれへん。そやけど、いつ何されるか、わからんやろ?それやったら、何もされてない今のうちに、俺と縁を切ったらえぇねん。」

嫌だ。心の中の私が、大きな声で叫んだ。

「ううん!いいの!本当に大丈夫だから!今までだって、似たようなことがあったし!仲良かった友達の好きな人の真似をしてたけど、その友達は、その子が好きじゃなくなったと同時に、私と縁を切った。それ以外にも、いろいろあった。だから、もう慣れてる。本当に大丈夫。だから・・・忍足だけは、私から離れないで・・・・・・。」

そう言うと、私の頬には大粒の涙が流れていった。そして、それは止まることを知らず、どんどんどんどん、流れてきた。
その時、私は気づいた。私は、忍足が好きなのだ、と。

「・・・・・・・・・そしたら、もう一つだけ、案があるんやけど。」
「・・・何?」
「俺と付き合わへんか?それやったら、たぶん、周りも何も言わんようなるやろ。」

私は呆然としてしまった。そして、その後、喜びの感情が出てきたが、それはすぐに消え去り、私はこう言った。

「でも、私のこと、好きじゃないでしょ?」

忍足は、私がいじめられているのを防ぐために「付き合おう」と言っているだけ。なら、私のことは好きではないのだ。

「そんなこと、あらへん。俺は、が誰の真似せんくても、好きやで。自身の声、いや、が好きなんや。」

そう忍足が言った。私は、それを聞いて、また涙が溢れた。

「本当?私からものまねを取ったら、何にも無いよ。誰の真似をしてなくても、好きでいてくれるの?」

私の友達、そして私自身も、私のものまねだけを頼っていた。それなのに、忍足はそれが無くても、いいと言ってくれた。

「なんで、嘘つかなアカンねん。・・・んで、自分は、どうなん?」

そう言った、忍足の声は本当に、心地よくて、私には、やっぱり真似できない、と思った。

「私・・・・・・も好き!」
「そうか。ほな、俺の彼女に手、出す奴は俺が、絶対許さへんから、安心しーや。」
「ありがとう。」

そうして、私は忍足と付き合うことになり、それから呼び出しなどは、本当に見る見る減っていった。今では学校のほとんどの人が認めてくれる、公認カップルとなった。

「コホン・・・。・・・・・・まかせとき、岳人。」
。それ、もしかして、侑士の真似?」
「似てた?」
「全然。」
「えー!あれから、練習に練習を重ねて、頑張ってるのにー。」
「自分ら、何しとるん?また、俺の真似か?」
「「そう。」」
「・・・ハァー。あんな、。別に、もう俺の真似なんて、せんくてえぇやろ?」
「だよなー、侑士。俺も思うぜ。」
「いいの!向日も侑士も、うるさいんだから。」

私は侑士と付き合っても、ものまねを止めようとはしなかった。侑士の真似の練習も、未だにしていた。侑士は本当に不思議がっていたけど、私はものまねが、やっぱり好きなのだ。今まで、友達を作れたのも、このものまねのおかげだし、それに、やっていて、楽しいし。でも、それ以上に、侑士との接点を作ってくれた、このものまねが、私は好きだった。
だけど、侑士のことが好きな、この気持ちは、誰の真似でもないからね。













 

なんか、オリジナルのキャラが出てきちゃいました!
で、彼女らの名前と被った方がいらっしゃいましたら、すみません!!
特徴的な名前とか思いつかなくて・・・。もう、本当いろいろとスミマセン・・・。

まぁ、前回(「Past And Present」)よりかはマシってことで・・・;;
それに、締めは結構、気に入ってたりします、はい。すみません(笑)。